んでね。

悪ふざけのすゝめ。

美容室についてね。

 最近少し髪が伸びてきて、鬱陶しくなってきました。

  

 

 思い切ってバッサリ行きたいところなんですが、実はキオリさんは美容室が苦手なのです。

 特に、BGMの音量が絞られているような静かな美容室が、えずきながら痙攣して泡を吹きつつ悶え苦しむほど苦手です。

 苦手すぎてストレスからハゲ散らかしかねない勢いです。むしろハゲます。毛髪が抜ける端から毛根が着実に死滅します。おや。美容室行く手間が省けるね。やったね。

 

 

 なぜキオリさんは美容室が苦手なのか。

 今回の記事ではその理由を3つの項目に分けてお話ししたいと思います。

 

 

なんか喋らなきゃいけない気分になる

 

 これもう完全にキオリさんの性格的な問題なんですけど。

 こう見えてキオリさんは、基本的にそんなお喋り好きなタイプじゃないわけですよ。特にそれほど親しくない人相手だと。

 だからヘアカットの時も基本的には黙ってたいわけです。黙ってるのがモアベターなわけです。

 

 

 でも隣の席の奥さんや、その奥の席のお姉さんは、美容師と楽しく会話に花を咲かせてるわけです。

 ○○に旅行に行った時はどうだっただの、○○のネイルサロンがどうだっただの、○○の刑務所に収監された時はどうだっただの、○○の看守は優しかっただの、様々な会話が咲き誇ってるわけです。狂い咲いてるわけです。乱れ咲き散らかしてるわけです。

 

 

 美容室中で楽しい会話が飛び交っている。そりゃ自分も喋らなきゃいけない気分になりますよ。

 だって、そんな中でキオリさんの席だけしーんとしててごらんなさいな。美容師さんにどう思われるかって話ですよ。

 

 

「あれ……他の人はみんな楽しそうに話してるのに、このお客さんは全然話してくれないわ」

「無愛想な人なのかな。つまらないお客さんだわ。どうせならもっと明るいお客さんに付きたかった」

 「でも……なんだかそんな素っ気ないところも素敵……」

 「……好き」

 ってなっちゃうじゃないですか。

 

 

 客商売とは言え美容師さんも人間ですしね。いい客、悪い客みたいな意識も多少はあると思うんです。

 寝た振りしてもいいんですけど、なんか見え透いてる気もしますし。あと髪型がどうなっていくかを美容師さんに丸投げしちゃうのもなんか不安ですし。キオリさんまだお前にそこまで全幅の信頼寄せてないし。

 

 

 積極的に会話をしたいわけでもないけど、露骨に無視するのも気が咎める。

 結局、現段階でキオリさんはどうしてるのかと言うと、「私は今食い入るようにファッション誌読んでますんで」空気出してます。ページの上にカットした髪の毛乗ってるのに。超見づらいのに。髪の毛なんてありませんけどみたいな顔して。

  

 

 マッサージが嫌い。

 

 美容室行くと、カットの終盤で美容師さんがマッサージしてくれるじゃないですか。

 頭皮やら首筋やらを手でトントンしたり、肩をギュッギュギュッギュ揉んでくれたり。

 キオリさん、あれ苦手なんです。なんか強めのマッサージって痛いんですよね。

 

 

 それなら「マッサージはいいです」って言えばいいんじゃね? って思いますよね。キオリさんもそう思います。

 

 

 キオリさんも、別にNOと言えない日本人というわけではないんです。

 ただ、相手がよかれと思って(ここ大事)やってくれていることを「やめてくれ」と言うのが苦手なんです。 

 そこに1ミリでも相手の悪意が混じってるのが感じ取れるのであれば、「やめてくれ」と言うこともできますし、ある程度強い言葉で反論することもできますし、業務用ハンマーで相手の眼底を砕くこともできるんですけど。スナック感覚で。

 

 

 マッサージをすればお客様は気持ちよくなってくれるだろう。リラックスしてくれるだろう。美容師さんは、そういう善意の気持ちでやってくれてるわけじゃないですか。

 

 

 そんな中でキオリさんが迷惑そうな顔をして「マッサージはしなくていいです」なんて言ったらね。相手の美容師さんがどう思うかって話ですよ。

 

 

「何よ、このお客さん……何もそこまで拒絶しなくても……」

 「気持ちよくなってもらおうと思っただけなのに、そんな迷惑そうな言い方しなくてもいいじゃない……」

 「でも……なんだかそんなつっけんどんなところも素敵……」

 「……好き」

 ってなっちゃうじゃないですか。

 

 

 まぁこれに関しては、うまい言い回しで断れない自分が悪いんでね。

 大人しく受け入れてます。

 

 

パーマのかかったヘアスタイルは好き。でもパーマ自体は嫌い。

 

 まぁこれこそ「パーマかけるかどうかなんてお前のさじ加減だろ」って話だと思うんですけど、パーマは好きなんで極力かけたいんですよね。

 

 

 パーマかけるとそれだけで美容室にいる時間がめっちゃ延びるんで、それもきついんですけど、パーマ自体も結構きついんですよね。

 前にめっちゃパーマが痛い美容室に当たったことがあって。

 でもキオリさんパーマがかかりにくい髪質らしくて自分で「ちょっと強めにかけてください」って言っちゃってるし、もうすでに大量のロッドが巻かれちゃってるのでそれを全部外して一から巻きなおすのも大変だろうし、美容師さんが明るくていい人だったってのもあって、「痛いんでロッド巻きなおしてください」とは言えなかったんですよね。

 

 

 でもその時のパーマは本当にめっちゃ痛くて。

 まぁ口にも出してませんし、顔は完全に無表情なんですけど。

 内心はこんな感じだったんですよ。

 

 

「あ、痛い痛い痛い! ロッドめっちゃ痛い! めっちゃ髪引っ張られてる! ハゲる! これ確実にハゲる! あるいはもうハゲている可能性すら否めない! 大丈夫? これ抜けてない? 俺の毛根大丈夫? なんか嫌なカウントダウン始まってない? ハゲたら訴訟とか起こせる? 勝てる? いい弁護士さんついてくれる?

 って、冷たっ! パーマ液冷たっ! え。なにこれ超冷たいんだけど。揉めごとが拗れて別れた直後の元カノより冷たいんだけど。絶対零度なんだけど。絶対零度の冷気が直接毛根を刺激するんだけど。

 ってか、くさっ! パーマ液くさっ! なにこの鼻腔をダイレクトかつピンポイントで突き刺してくる臭い! なんなの? 嗅覚まで殺そうとしてるの? 毛根だけじゃなく?

 って熱っ! 今度は熱っ! なんかパーマかけるための機械めっちゃ熱い! え、大丈夫これ本当に? 地肌がジリジリ焼かれてる感あるんだけど? ガンガン引っ張られて散々ダメージ受けてるところにこの熱大丈夫なの? それともあれなの? 火葬なの? もう毛根なんてさっきのでとっくに死んでるから火葬してるの?

 もう何か訳分からん! 熱いんだか冷たいんだか痛いんだかくさいんだかよく分からん! いやもうむしろ全てを網羅してる! 日本語では表せない複雑な境遇!

 熱くて冷たくて痛くてくさい!

 熱くて冷たくて痛くてくさい!」

 

 

 的な。

 

 

 もうパニックですよ。

 完全無表情かつ無言なんですけど、軽く脳内アルマゲドン発生中ですよ。

 

 

 でも上でも言いましたけど、もう結構な数ロッドも巻いちゃってますしね。

 美容師さんはロッドを巻くときも、パーマ機でパーマをかける時も、ハンマーで恥骨を砕く時も、「痛かったり熱かったら言ってくださいねー」って優しく言ってくれましたしね。その時に「大丈夫ですよー」って言っちゃったのはキオリさんですしね。

 

 

 お客様が痛い思いをしないように、思い通りのパーマをかけられるように、美容師さんがそこまで気を遣ってくださっているわけですよ。

 それなのにキオリさんがその気遣いを無視して、「痛いんでやめてください」なんて言ったら、美容師さんがどう思うかって話ですよ。

 

 

「え……何よ。あなたが自分で大丈夫だって言ったんじゃない……」

 「こっちは最新の注意を払って、お客様が望むパーマをかけようとしてるだけなのに……ロッドも巻きなおしで二度手間になっちゃうし……」

 「でも……なんだかそんなちょっと俺様なところも素敵……」

「……好き」

 ってなっちゃうじゃないですか。

  まぁキオリさんはお前のこと嫌いだけどな。

 

 

 なんでしょうね。

 やっぱり美容師さんによってパーマをかける上手さみたいなものがあるんでしょうね。

 キオリさんも特定の美容師さんを毎回指名してるわけではないので、そこは運次第になっちゃうのも仕方ないですね。

 

 

 まぁパーマに関してはね。さすがにアラサーでハゲるのは避けたいんでね。

 今後は余りにも痛いようなら、それをちゃんとお伝えしようとは思ってますけどね。

「すいません。思ったよりもロッドが痛いんで、弁護士呼んでください」つって。「今後の話し合いは弁護士を通してお願いします」つって。

 

 

結論

 

 まぁ長々と美容室が苦手な理由を書いてきましたけど。

 書いてるうちに考えがまとまってきて最終的な結論が出ました。

 

 

 まぁつまるところ

「美容師さんはみんなキオリさんのことが好き」

ってことですよね。

 

 

 なのでね。

 美容師さんに度を越えた配慮をするのは控えて、今後はもうちょっと言いたいことを言っていきたいと思います。

 

 

「苦手なんでマッサージは結構です」とかね。

「ちょっと痛いのでロッド巻きなおしてください」とかね。

「幸運を呼び寄せるツボがあるので、50万で買いませんか」とかね。

  遠慮せずにその辺りのことをきちんと発言していくことを心に決めたキオリさんなのでした。